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算定根拠

― この数字は、どこから来たのか ―
最終更新日:2026年8月13日 / 残高余命

残高余命は、老後の生活費や介護費用について、いくつかの初期値をあらかじめ設定しています。このページは、その数字がどこから来ているのかを公開するものです。数字には性格の違うものが混ざっています。政府統計をそのまま使っているもの、統計をもとに私たちが判断を加えたもの、統計的な裏づけがなく推計にとどまるもの。これらを区別せずに並べるのは不誠実だと考えるため、すべての数値に種別を表示しています。

種別の凡例

統計は毎年・数年ごとに更新されます。第6章の更新サイクルに従って定期的に再確認し、必要に応じてアプリの初期値を見直します。更新した場合は最下部の履歴に記録します。

出典一覧

出典発行直近の公表
家計調査(家計収支編)2025年平均総務省統計局2026年2月6日
全国家計構造調査 2024年総務省統計局2025年12月19日
介護保険事業状況報告(年報)令和5年度厚生労働省2025年8月
人口動態統計厚生労働省毎年
生命保険に関する全国実態調査 2024年度生命保険文化センター2024年度
地域医療構想策定ガイドライン厚生労働省2026年7月3日
介護老人保健施設(参考資料)/社会保障審議会 介護給付費分科会厚生労働省随時

人生の節目の係数

「人生の節目」機能では、退職や配偶者との死別といった節目で、生活費がどう変わるかを自動で提案します。その際に使う係数です。

退職 → 0.88 🔵 統計

年齢がほぼ同じで、働いているかどうかだけが違う2集団を比較しました。

集団消費支出/月世帯主年齢世帯人員
二人以上・勤労者・世帯主60歳以上335,910円65.9歳2.52人
二人以上・65歳以上無職・65〜69歳296,997円67.2歳2.37人

296,997 ÷ 335,910 = 0.884(出典:家計調査 2025年平均)

年齢差が1.3歳しかないため、加齢の影響がほとんど混ざらない比較になっています。

カテゴリ別の内訳は⚪ 推計です。家計調査に対応する組がないため、通勤・被服・交際費が減り、在宅時間が増えて受診機会が増える方向で推計しました。
食費0.90/医療・健康費1.10/旅行・趣味1.05/家賃・住居0.85/娯楽・交際費0.80

死別(世帯人数2→1) → 実績0.56 🔵 / 採用値0.65 🟡

年齢がほぼ同一の夫婦世帯と単身世帯を比較しました。

集団消費支出/月世帯主年齢世帯人員
65歳以上の夫婦のみ無職世帯263,979円77.6歳2.00人
65歳以上の単身無職世帯148,445円77.8歳1.00人

148,445 ÷ 263,979 = 0.562(出典:家計調査 2025年平均)

年齢差0.2歳。世帯人員の違いだけを取り出せる、ほぼ理想的な比較です。

カテゴリ夫婦単身係数
食費78,964円42,545円0.54
医療・健康費17,941円8,388円0.47
旅行・趣味49,875円26,265円0.53
家賃・住居60,504円36,518円0.60
娯楽・交際費56,695円34,730円0.61
合計263,979円148,445円0.56

固定費(住居・光熱・通信)は半分にならず0.60。人数に比例する食費・医療は0.47〜0.54。交際費だけは0.73と高く、一人になっても人付き合いは減らないという実態が出ています。

なぜ採用値を0.65にしたか

  1. 単身高齢者の支出は収入に制約されている。夫婦高齢者無職世帯の実収入は254,395円、単身無職世帯は131,456円で、比率は0.52。支出比率0.56とほぼ一致します。つまりこの0.56は「必要額」ではなく「収入の範囲でしか使えなかった結果」です。配偶者の資産と遺族年金を引き継ぐ方には、そのまま当てはまりません。
  2. 等価尺度の理論値との乖離。世帯人員の平方根で換算する等価尺度(OECD)の理論値は0.71。実績0.56との開きは、上記でほぼ説明がつきます。
  3. 低く見積もることは危険側にあたる。資産寿命を扱うアプリでは、支出を低く置くと資産が長持ちして見えます。外すなら高いほうに外すべきだと考えました。

以上から、実績0.56と理論値0.71の中間、やや安全側に寄せた0.65を採用しています。カテゴリ別係数も同じ比率で調整しています。

後期高齢期(75歳〜) → 0.85 🔵 統計

年齢階級消費支出/月
65〜69歳296,997円
70〜74歳285,844円
75歳以上248,460円

直前が「退職後(60〜75歳)」の場合、基準は65〜74歳の平均291,421円。248,460 ÷ 291,421 = 0.853(出典:家計調査 2025年平均・二人以上・65歳以上無職世帯)

カテゴリ係数備考
食費0.90ほぼ横ばい
医療・健康費0.99変わらない(第3章参照)
旅行・趣味0.75最も下がる
家賃・住居0.96ほぼ横ばい
娯楽・交際費0.87やや下がる

出典:全国家計構造調査2024年(夫婦のみ無職世帯・70〜74歳→75歳以上)。75歳の節目で下がるのは旅行と交際費だけで、生活の土台(食・住・医療)はほとんど動きません。

医療費について

75歳以降、家計から出る医療費は増えません。 🔵 統計

一般に「後期高齢者は医療費が重くなる」と言われますが、家計から実際に出ていく金額は増えていません。

年齢階級保健医療費/月
65〜69歳22,333円
70〜74歳17,856円
75歳以上17,656円

出典:全国家計構造調査2024年(夫婦のみ無職世帯)

理由は制度です。後期高齢者医療制度により自己負担割合が下がるため、医療の利用量が増えても家計負担は増えません。参考として、国民医療費ベースでは65歳以上の一人当たり医療費は年67万3400円で、65歳未満の15万8900円の4倍以上ですが、その差のほとんどは保険と公費が負担しています。

この事実を受け、残高余命では旧来の「75歳から追加医療費を上乗せする」仕様を廃止し、次章の介護費用に置き換えました。

介護に関する数値

費用と期間 🔵 統計

項目金額・期間
月々の費用(平均)9.0万円
うち 在宅5.3万円
うち 施設13.8万円
一時費用(住宅改造・介護用ベッド等)47.2万円
介護期間(平均)55.0か月(4年7か月)
総額の目安約542万円

出典:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2024年度(過去3年間に介護経験がある人が対象、公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)。4年を超えて介護した人は約4割です。

注意:この調査は「過去3年間に介護経験がある人」への聞き取りで、現在も介護中の方はその時点までの経過期間しか回答できません。実際の介護期間は、この平均よりやや長い可能性があります。

要介護認定率 🔵 統計

年齢層認定率
65歳以上75歳未満4.3%
75歳以上31.1%

出典:介護保険事業状況報告 令和5年度年報

75歳を境に7倍以上に跳ね上がります。残高余命が介護の開始年齢を人生の終盤に想定しているのは、この数字に基づいています。

要介護度の分布 🔵 統計

令和5年度末の要介護(要支援)認定者708万人の内訳は、要支援1が14.4%、要支援2が14.1%、要介護1が20.7%、要介護2が16.8%、要介護3が13.1%、要介護4が12.6%、要介護5が8.3%。

要支援1〜要介護2で66.0%。介護は軽度から始まるのが標準であり、この段階では特別養護老人ホームへの入所要件(原則要介護3以上)を満たしません。「いきなり施設に入る」ケースは例外的です。

サービス利用の内訳 🔵 統計

令和5年度・1か月平均のサービス受給者609万人のうち、居宅サービスが422万人(69.2%)、地域密着型サービスが91万人(15.0%)、施設サービスが96万人(15.8%)。サービス間の重複利用があります。

介護は、何によって終わるのか 🔵 統計

特別養護老人ホームの退所理由は、施設内死亡と入院後の死亡を合わせた死亡退所が70.4%、病院・診療所への入院による退所が24.9%。合計95.3%です。

介護は、事実上「本人が亡くなること」で終わります。回復して要介護から外れる人は統計上ほとんどいません。残高余命が介護の終わりを想定寿命に固定し、開始年齢を逆算する方式を採っているのは、この事実に基づいています。

最期を迎える場所 🔵 統計

場所人数構成比
病院・診療所約104万人65.7%
自宅約27万人17.0%
老人ホーム・介護医療院・介護老人保健施設約25万人15.5%

出典:人口動態統計(2023年)。病院で亡くなる割合は2000年の81.0%から2023年の65.7%まで低下し、施設は2.4%→15.5%、自宅は13.9%→17.0%へと増えています。

この3つの数字から導かれる標準的な経路は、「在宅で介護が始まり、数年続き、最後は病院または施設」です。

施設入居中の生活費控除 ⚪ 推計

施設に払う費用の中には、食費と居住費が含まれます。特別養護老人ホームでは食費・居住費が制度上明確に区分され、入所者が負担する仕組みになっています。そのため、施設入居中の期間について介護費用と生活費を両方まるごと計上すると、同じ費用を二重に数えることになります。

残高余命では、施設に入居している期間の生活費から、以下の割合を差し引いています。

カテゴリ控除率理由
食費−90%施設費に含まれる
医療・健康費0%施設費に含まれない。控除しない
旅行・趣味−80%外出が困難になる
家賃・住居(持ち家)−45%管理費・修繕積立金・固定資産税は残る
家賃・住居(賃貸)−85%解約。手続き期間と原状回復費のみ残す
娯楽・交際費−50%理美容・日用品・小遣いは残る

持ち家か賃貸かは、不動産の登録の有無から自動で判定しています(介護開始年齢の時点で判定し、期間中は固定)。判定結果はアプリの画面上にも表示しています。

控除を適用する期間は、想定する経路によって変わります。「最期まで自宅で」は在宅のため適用しません。「在宅から始まり、途中で施設へ」は介護期間の後半半分、「早い段階から施設で」は全期間に適用します。

この控除率には統計的な裏づけがありません。「施設に入居した人のうち何割が賃貸を解約したか」「施設入居によって生活費がどの程度減るか」を追跡した調査を探しましたが、政府統計にも民間調査にも見当たりませんでした。個人を「在宅→施設」と追跡して住居の処分や家計の変化を観測する必要がありますが、介護保険統計は施設側の利用実績を集計するものであり、住宅・土地統計調査は施設入所者を調査対象から除外しています。構造的に、誰も測っていない領域です。

上記の数値は、施設費に食費・居住費が含まれるという制度上の前提と、持ち家であれば管理費等が残るという実態から、残高余命が推定したものです。アプリ上ではチェックを外すことで控除なしに戻せます。

施設費と生活水準の連動 ⚪ 推計

上記の月5.3万円・9.0万円・13.8万円は、生命保険文化センターの調査による全国平均です。しかし、この金額をそのまま全員に当てはめると、矛盾が生じます。

月38万円の暮らしをしている人が施設に入ったとき、生活費が29万円に落ちる計算になります。ところが月13.8万円の施設とは、特別養護老人ホームや低価格帯のホームのことです。38万円の暮らしをしてきた人が、そこに入るとは考えにくい。実際には有料老人ホームで月25〜35万円を選ぶことになります。

アプリのモデルケース8種類で検証したところ、8件すべてで「最期まで自宅で」が最も高く、「早い段階から施設で」が最も安いという逆転が起きていました。介護費が最も安い選択肢が、総支出では最も高くなる。在宅を望む方に、最も不利な結果を提示していたことになります。

原因は、施設費がその人の生活水準にまったく連動していなかったことです。「施設に入った瞬間、その人が急に慎ましい暮らしに切り替わる」という前提が、暗黙のうちに置かれていました。人は生活水準をそう簡単に変えられません。

そのため、統計値を下限として、生活水準に応じて調整する方式に変更しました。

経路統計値(下限)算定式
最期まで自宅で5.3万円5.3万円(固定)
在宅から始まり、途中で施設へ9.0万円max(9.0万円, 基準生活費 × 0.45)
早い段階から施設で13.8万円max(13.8万円, 基準生活費 × 0.70)

「基準生活費」とは、介護が始まる年齢の時点における月間生活費(今の物価での実質額)です。人生の節目を設定している場合は、その区間の金額を使います。アプリ画面上に、実際に使われている基準生活費を表示しています。

「最期まで自宅で」を連動させないのは、在宅介護サービスの費用が介護保険の区分支給限度額によって上限が定まっており、生活水準に比例して増える性質ではないためです。

係数0.45・0.70に統計的な裏づけはありません。入居前の生活水準と施設費を結びつけた調査は、確認できていません。有料老人ホームの費用は月20〜30万円が中心帯で、これは平均的な生活費(25万円前後)の0.8〜1.2倍にあたること、施設費には食費・居住費が含まれることから、生活費の7割程度を妥当な水準と判断しました。

在宅介護中の生活費 ⚪ 推計

要介護状態になると、施設に入るかどうかにかかわらず減る費目があります。自宅にいても、外出が難しくなれば旅行や趣味の支出は減ります。

カテゴリ在宅介護中施設入居中
食費控除なし−90%
医療・健康費控除なし控除なし
旅行・趣味−80%−80%
家賃・住居控除なし−45%(持ち家)/−85%(賃貸)
娯楽・交際費−30%−50%

「在宅から始まり、途中で施設へ」を選んだ場合、介護期間の前半には在宅の控除、後半には施設の控除を適用します。

残高余命での設定

項目初期値種別
介護トグルOFF(健康状態「持病あり」の場合はON)
開始年齢想定寿命 − 期間(逆算)🔵
期間5年(持病ありの場合は8年)🟡
費用:最期まで自宅+5.3万円/月🔵
費用:在宅から施設へ+9.0万円/月(初期値)🔵
費用:早期から施設+13.8万円/月🔵
一時費用47万円(施設中心の場合は0円)🔵
施設費の生活水準連動統計値を下限に、基準生活費×0.45(混合)/×0.70(施設)
介護中の生活費控除ON(在宅・施設で控除率が異なる)

期間の初期値5年は平均4年7か月に基づきます。持病がある場合の8年は、開始が早まる一方で終わりが死亡に固定されるため期間が延びる、という考え方によるもので、統計的に導いた値ではありません。

加齢による支出構成の変化

「人生の節目」を設定しない場合、加齢とともにカテゴリの構成比が少しずつ変化する仕組みがあります。その1年あたりの変化幅(%ポイント)です。

カテゴリ65〜69歳75歳以上変化/年採用値種別
食費30.1%33.0%+0.22+0.20🔵
医療・健康費7.3%7.5%+0.02+0.02🔵
旅行・趣味21.3%19.1%−0.17−0.17🔵
家賃・住居25.1%23.1%−0.15−0.10🟡
娯楽・交際費16.1%17.4%+0.10+0.05🟡

出典:全国家計構造調査2024年(夫婦のみ無職世帯・65〜69歳→75歳以上の約13年分)

食費の割合が上がるのは、エンゲルの法則によるものです。高齢になると支出総額が22%減るのに対し、食費は15%しか減らないため、割合は相対的に上がります。娯楽・交際費も同様で、交際費は実額でほぼ横ばい(9,915円→9,914円)でした。

家賃・住居のみ、統計値の−0.15ではなく−0.10を採用しています。65〜69歳の住居費が30,874円と突出して高く、70〜74歳では14,057円に落ちるなど、設備修繕費のばらつきが大きく信頼性が低いためです。統計値を半分に割り引いています。

この変化の起点は65歳です。根拠となる統計が65歳以上でしか取得できていないため、それより若い時期には適用していません。

インフレ率の初期値

シナリオ加重平均種別
楽観シナリオ1.45%
標準シナリオ2.50%
高インフレ3.75%

現時点では統計的な検証を行っていません。標準シナリオの2.50%は政府・日銀の物価目標2%に体感インフレ分を加えた水準として設定していますが、カテゴリ別の内訳(食費・医療・旅行・住居・娯楽)については消費者物価指数の費目別推移との突き合わせを行っていません。

次回の更新時に、消費者物価指数の中分類データを用いて検証する予定です。

統計の限界について

数字を出す以上、その数字が何を捉えていないかも公開すべきだと考えます。現時点で判明している限界は8つあります。

一 家計調査は、費用が最も膨らんだ人を除外している

家計調査・全国家計構造調査はいずれも、社会施設の入所者と病院・療養所の入院者を調査対象から除外しています。そのため「75歳以上は消費支出が少ない」「保健医療費が増えない」という結果が出ますが、これは在宅で暮らし続けられている人だけを見た数字です。施設に入った人、入院した人は統計から消えています。

第3章の「医療費は増えない」という結論は、この限界の上に成り立っています。だからこそ、残高余命では医療費ではなく介護費用として別途扱っています。

二 単身高齢者の支出は、必要額ではなく収入の反映である

第2章で述べたとおりです。実収入が夫婦世帯の52%しかないため、支出0.56という数字は需要ではなく制約を映しています。資産をお持ちの方には当てはまりにくいため、残高余命では0.65に調整しています。

三 統計は過去しか映さない

厚生労働省は2026年7月、2040年を見据えた「地域医療構想策定ガイドライン」を公表し、病床機能の再編に加えて外来医療・在宅医療・介護連携までを含めた提供体制の再構築を進める方針を示しました。2040年に向けて在宅医療の需要は大半の地域で62%増加すると見込まれています。

つまり、今後は「介護の延長線上を病院が引き受ける」枠が縮小していきます。病院での療養は高額療養費制度によって自己負担に上限がありますが、施設や在宅に移ると介護保険の自己負担・食費・居住費が家計に直接かかります。政策の方向は、家計負担が増える方向です。

第4章の月9.0万円という数字は、病院が最期の65.7%を引き受けていた時代の調査に基づいています。今後老後を迎える世代にとっては、この数字は低すぎる可能性があります。残高余命では、根拠のない数字を置くことを避けるため統計値をそのまま初期値としていますが、この点はアプリ内でも注記しています。

四 死亡直前の入院費用を計上していない

最も多い経路は「在宅で介護 → 入院 → 病院で死亡」であるため、実際には最後に医療費が発生します。ただし入院は高額療養費制度により自己負担に月額上限があり、期間も長くないため、影響が限定的であること、また金額の根拠を立てにくいことから、現時点では計上していません。

五 係数は掛け算のため、元の値が極端に小さい項目は変化しない

節目の係数はすべて現在の金額に掛ける方式です。そのため、たとえば現在の医療費が月6千円と極端に少ない方の場合、退職(係数1.10)や後期高齢期(係数0.99)を経ても、金額はほとんど変わりません。

「今は健康だから医療費がかからない」方に対して、老後の医療費をゼロに近いまま提示してしまうという弱点があります。単身高齢者の保健医療費は月0.8〜1.1万円程度が実勢ですので、極端に低い値を入力されている場合は、節目ごとに手で調整することをおすすめします。

六 調べたが、存在しなかった統計

第4章の「施設入居中の生活費控除」で述べたとおり、施設入居に伴って生活費がどう変わるかを追跡した統計は見当たりませんでした。同様に、施設入居時の住居(賃貸の解約・持ち家の売却)の処分についても、全国規模の実態調査は確認できていません。

この領域の数値は、制度上の前提と実態からの推定に頼らざるを得ません。該当する調査をご存じの方は、ぜひお知らせください。

七 「介護は死亡で終わる」という前提の限界

残高余命は、介護が始まったら想定寿命まで続くものとして計算しています。これは特別養護老人ホームの実態(死亡退所70.4%・入院24.9%)に基づく前提です。

一方、介護老人保健施設は在宅復帰を目的とした中間施設で、平均入所期間は約10か月(299.9日)、退所者の約3割が在宅に復帰しています(厚生労働省・平成27年調査)。骨折や脳血管疾患から回復し、再び自立した生活に戻る経路は実在します。

施設サービスの利用者を種別で見ると、特別養護老人ホームが約6割、介護老人保健施設が約3.5割です。ただしこれはある時点のスナップショットであり、老健は在所期間が短いため、生涯で老健を経験する人の割合はこれより高くなります。その一方で、老健にいる期間は人生全体から見れば短いものです。

回復して自立に戻る場合、実際の介護費用は本アプリの計算より少なくなります。回復の可能性を確率として入力していただく設計も検討しましたが、現役世代の方がその確率を答えられるとは考えにくいため、安全側に倒した現在の形を採っています。見落としではなく、判断による割り切りです。

なお、初期値としている月9.0万円(在宅から施設へ)は、生命保険文化センターが「過去3年間に介護経験がある人」に聞き取った平均です。回復して帰宅した人も、在宅のまま亡くなった人も含まれた数値であり、在宅5.3万円と施設13.8万円のちょうど中間にあたります。介護期間のおよそ半分を施設で過ごした場合の水準です。

八 入居前の生活水準と施設費を結びつけた統計がない

第4章で述べた係数0.45・0.70は、有料老人ホームの費用相場と、施設費に食費・居住費が含まれるという構造から推定したものです。「月◯万円の暮らしをしていた人が、月◯万円の施設を選んだ」という実態調査は確認できていません。

施設の選択は、資産・収入・介護度・空き状況・家族の意向など多くの要因で決まります。生活水準だけで決まるものではありません。それでも、生活水準を一切考慮せず全員に同じ金額を当てはめるよりは、実態に近いと考えています。

アプリ上では、施設費が実際にいくらで計算されているかを画面に表示しています。実感と合わない場合は、経路の選択を変えるか、人生の節目の金額を調整してください。

補足 カテゴリのマッピングについて 🟡

家計調査の10大費目を、残高余命の5カテゴリに以下のように割り当てています。この割り当ては残高余命の判断です。

残高余命のカテゴリ家計調査の費目
食費食料(外食含む)
医療・健康費保健医療
旅行・趣味教養娯楽 + 交通・通信のうち交通/自動車分(74.5%)
家賃・住居住居 + 光熱・水道 + 家具・家事用品 + 通信分(25.5%)
娯楽・交際費その他の消費支出 + 被服及び履物

交通・通信の分割比は、2025年の二人以上世帯の内訳(交通5,703円+自動車等28,355円 対 通信11,672円)から算出しています。

また、家計調査の「住居」は持ち家の帰属家賃も住宅ローン返済も含みません。65歳以上無職世帯の持家率は95.5%であるため、住居費が月1.8万円という低い数値になっています。残高余命ではこれを係数(比率)としてのみ使用し、金額そのものは使用していません。賃貸にお住まいの方の場合、死別後も家賃が変わらないため住居の係数は実態より低く出ます。

更新サイクル

出典更新頻度次回の確認時期
家計調査 年平均毎年2月2027年2月
介護保険事業状況報告 年報毎年8月2026年8月
人口動態統計毎年2027年
生命保険文化センター 全国実態調査3年ごと2027年度
全国家計構造調査5年ごと2029年末
地域医療構想随時2028年度(都道府県策定期限)

毎年2月と8月に、このページを見直します。

更新履歴

日付内容
2026-08-13初版公開。家計調査2025年平均・全国家計構造調査2024年に基づき、退職・死別・後期高齢期の係数を確定。追加医療費を廃止し介護費用に置き換え。加齢変化の係数を統計値に修正。
2026-08-13施設入居中の生活費控除を追加(第4章)。あわせて「調べたが存在しなかった統計」を第7章に追記。
2026-08-13第7章に「『介護は死亡で終わる』という前提の限界」を追記。介護老人保健施設からの在宅復帰について記載。
2026-08-13施設費を生活水準に連動させる方式に変更(第4章)。在宅介護中の生活費控除を追加。第7章に「入居前の生活水準と施設費を結びつけた統計がない」を追記。

ご指摘・お問い合わせ

誤りを見つけられた方へ

数字の解釈に誤りを見つけられた場合、ご指摘いただけると助かります。統計の読み違いは誰にでも起こりますし、指摘を反映することでこのページの価値が上がります。

X(旧Twitter): @MJ4578669679927 までお知らせください。